第17章 迫り来るオクトパス
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舞台は再び森の家。
しとしと雨が降り出し、柔らかな草花をその雫が濡らしている。ローズは、数時間前にここを発ったフロイドとジェイドの身を案じた。
『2人とも、きっと濡れちゃってるわよね…。大丈夫かしら。風邪引かないといいけど…』
「………」
彼女の言葉にリドルは答えない。
実は、彼はさきほどからずっとこんな様子だ。自分の両の手を握り合わせ、ただその固く閉じられた手を見つめている。加えて、眉間には深い皺があった。
どうして彼が立腹なのか。そんなのは考えるまでもない。
本来ならば、ここで彼女は脅威となる存在から出来るだけ隠れて過ごさなければならない。それなのに、今回のローズの言動は、それと真逆を行くものだったから。
自らを狙う男を、ここに呼びつけたのだ。彼女を守る立場の人間からしてみれば、たまったものではない。
『…えっと、リドル…怒ってる?』もしかして
いくら鈍感なローズでも、彼の怒りにはさすがに気付く。恐る恐る伺いを立ててみる。
すると、彼はやっと顔を上げた。
「思わず愛しいキミの首を跳ねてしまいそうになるくらいにはね」
『え、っと…それは、困る…かしら』
さり気無く紡がれた愛の言葉と、首を跳ねるという物騒極まりない言葉。それらを同時に受け、頭が混乱しそうになる。
「…と、言いたいところだけど。
まぁそうだね…正直、キミの破天荒な言動には慣れてきているんだよ。だから、そこまで怒ってはいない」
ローズはリドルの言葉をしっかりと考えた上で、こう切り返す。
『…それって…ただリドルが我慢強くなっただけじゃない?』
「!…ふふ、やはりローズは意外と理解力がおありだね」
楽しげな笑いを溢すリドルに、彼女は頬を膨らませて言う。“ 意外と ” は余計だと。