第17章 迫り来るオクトパス
「リリア様!!やはりこの周辺だけでも見回って来ます!若様ー!」
変わらずの声量で、セベクは結局 部屋を飛び出して行った。
「…はぁ。セベクはどうして、“ あぁ ” もセベクなんでしょうか」
「そう言うてやるなて。あやつが “ あぁ ” なのも、全てはマレウスの事を想おておるからじゃ」
リリアは、ソファから立ち上がりダイニングテーブルへと移動した。それを見たシルバーは、お茶の準備を始める。
「親父殿。マレウス様は…また、あの場所へ?」
シルバーは、用意が出来たお茶をソーサーごとリリアの前に差し出した。
リリアは、自分の為に入れられたそれの香りを楽しんでから、ゆっくりと啜った。
「じゃろうな」
リリアは知っていた。マレウスが、たまにこの城を空けて 森の家へと出向いているのを。
ローズの姿を、遠くから見守っているのを。
べつに、何をするでもなく…ただ、見ているのだ。声をかけるでも、その髪に触れるでもない。ただ遠くから、姿を見つめるだけ。
「…後悔してるんじゃろうな。自分が、お姫様を呪った事を」
「マレウス様は、何も悪くないです」
シルバーの綺麗な瞳が、ギラリと憤怒の色に濡れた。
そう。ローズを含む王族達は、もはや彼等にとって敵と見なされているのだ。
シルバーとセベクは、最も近くで見ていたのだ。王に傷付けられ、血に濡れるリリア。そして、それに苦しみ喘ぐマレウスの姿を。
「俺は…絶対に許せません。あの王族達の事は」
「そんなふうに王族を嫌うから、マレウスは黙って出て行っとるんじゃぞ?
まぁ、お前達の気持ちも分からんでもないが」
「う…」
マレウスなりに気を使っているのだ。配下達が王族を敵視しているというのに、主人である自分が その姫を見る為に足を運ぶなど、あってはいけないと。
「で、ですが俺は…セベクよりはマシですよ」
「そうじゃのう。セベクはあの性格じゃから…。マレウスが姫様に会いに行っている事は、やはりこのまま秘密にしておいた方が無難じゃろうな。もしバレでもして、暴れ回られては敵わん」
リリアとシルバーの胸にある思いは異なってはいるものの、マレウスの幸せを願っている点では間違いなく同じなのである。
それは、城の周りをグルグルと回り続けるセベクにも、同じ事が言えるのであった。
「若様!どこですかー!」