第17章 迫り来るオクトパス
「いや、セベク。マレウスの事は探しに行かなくても大丈夫じゃ」
歩き出したセベクの背中に、リリアは語り掛ける。
「しかし!」
「姿が見えなくなって3日…。それなら、わざわざ探しに出ずとも もうすぐに帰って来るじゃろ」
リリアはそれだけ告げると、再び革張りのソファに座り直した。そして挟んでいた栞を抜き取ると、そのページから続きを読み始めるのだった。
そんな姿が呑気に写ったのか、セベクは不服顔だ。
リリアには、分かっていたのだ。
マレウスが、今どこでどうしているのか。
「もうすぐとは!?どれくらいですか?あと10分ぐらいですか!?」
「………はぁ」
まるで子供のような問答をするセベクに、リリアは小さく溜息をついた。
「うるさい…」
「「!!」」
この部屋には、リリアとセベクの2人しかいないはずなのに。2人のもの以外の声がした。
セベクの声に、うるさいと溢した男は、ダイニングテーブルに突っ伏して眠っていたらしい。今はその体を起こし、眠そうな目でセベクを睨んでいる。
「シ、シルバー!?何故そんなところで寝てるんだ!!もう昼になるぞ!っていうか、ずっとそこにいたのか!?」
「いや、それよりも…。この騒音の中今まで寝ていた事の方が驚きじゃ」
シルバーと呼ばれた男は、キラキラ光る銀髪から切れ長の目を覗かせている。その瞳はまたまだ眠り足りないと語っているようだ。
「…ここで朝食を食べたのは、たしかに覚えているんですが…。どうもその後の記憶が…」
申し訳なさそうに、リリアに報告した。
「弛んどる弛んどるぞシルバー!!そんな事では、若様の見にピンチが訪れた時、すぐにお守りできないだろうが!」
「…今は、そのマレウス様のお姿がないんだろ」
冷静に言い放ったシルバーの言葉に、セベクはその重要な事実をやっと思い出した。
「はっ!そうだった!!」