第17章 迫り来るオクトパス
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この場所は、相変わらずである。
草花の1つだってありはしないし、空は厚い雲に覆われて、耳をつんざく雷が辺りに鳴り響いていた。
茨の谷。マレウスの居城である。その城内には、雷にも決して負けていないほどの大声を上げる男が1人…
「リリア様!!!若様!!!若様ー!!!リリア様ーー!!」
ソファに腰掛け、ゆっくりと書物に向き合っていたリリアの顔が歪む。
「若様!!リリアさ」
「セベク、どうしたんじゃ。やかましくて落ち着いて本も読めんて」
自分を呼ぶその声に、仕方なくドアを開けて顔を覗かせてやる。そこに立っているのは、セベク・ジグボルト。リリアとマレウスの近衛を務める男である。
うねる緑髪を揺らし、瞳は力強いエネルギーに満ちた彼は。大股でずんずんとリリアへと近付いた。
「ここにおられましたかリリア様!!実は若様のお姿がまた見当たらないのですが!」
「分かったから声のボリュームを落としてくれんか。わしのキュートなこの耳が聞こえんようになったらどうするんじゃ」
恨めしそうにセベクを見上げながら、リリアは耳を塞いだ。
「は!!申し訳ございません!」
声のトーンを落とすように言ったリリアの言葉は、全く聞き入れられる事はなかった。
「…もう諦めとるからいいんじゃがな。
で?マレウスの所在がどうとか言っておったな」
「はい!このセベク、もう3日は若様の御尊顔を拝見しておりません。今頃どこで何をされているのかっ。もしやどこぞで迷子にでもなられているのではと心配で居ても立っても居られず!」
マレウスを敬愛するあまり、セベクはかなり主君に対して過保護な護衛となっていた。
「や、やはり今すぐにでも探しに参りましょうか!!」
リリアはまだ何も言っていないというのに、彼はもうすでに一歩、場外へ出るために足を踏み出していた。