第17章 迫り来るオクトパス
「あとさ〜、くるくる変わる表情も面白ぇの。さっきまで怒ってたと思ったらさ、もう笑ってんじゃん!ってのよく見る」
ジェイドは、喜怒哀楽が激しいのはフロイドの方も負けてはいない。と思ったが、わざわざ口に出すほどの事では無いと考えた為、心の中だけに留めた。
「そうですね。ですが、あの人…泣かないんですよねぇ」
「あ!ジェイドも思った?やっぱオレ等 双子だわ。も〜超見てぇの。お姫様の泣き顔」
「ふふ、僕も結構イジメてはみたんですけどねぇ…。なかなか思うようにはいきませんでした。
見てみたいものです。普段は強い彼女が、あの綺麗な顔を歪めて咽び泣く表情…」
2人は、それはもう文句無しのヴィラン顔で 黒い笑みを浮かべるのだった。
「あぁですが、僕達は一度だけ彼女の泣き顔を見た事がありましたね」
そう言った途端、フロイドの顔からぱったりと笑みが消えた。
その変化には当然気が付いたジェイドだったが、特に遠慮はせずに言葉を続ける。
「ほら、それこそディアソムニア城の襲撃の時です。マレウスドラゴニ」
「オレさぁ…あいつ、すげぇ嫌い」
わざわざジェイドの言葉を切ってまで、フロイドはそう告げた。
ローズの泣き顔は見たいが、しかし泣かせる相手は自分でなければ意味がない。フロイドはそう考える。
むしろ、自分以外に涙する彼女の顔を思い出すだけで、強烈な憤りが彼を支配した。
「…そうですね。同感です」
そして、それはジェイドも同じ考えだった。
「あとさぁ、言い忘れてたけど…。お姫様に先に目ぇ付けたのオレだから。いくらジェイドが相手でも、あげないかんね」
ジェイドの方を見るでもなく、そう宣言するフロイド。
「おや、不思議な事を言いますね。恋に順番など関係ありませんよ」
「こ、恋!!あはは!ジェイド!真顔で恋とか言っちゃってんの!!なにそれ超ウケる〜〜!」
カラカラと笑い飛ばすフロイドを横目に、ジェイドは密かに震えた。
これだけ色々とローズについて想いの丈を語っていたというのに。まさかの自覚をしていない兄弟に、恐怖すら覚えたのだった。
しかし、ここでフロイドにあえてその事実を教えたりなどしない。彼は、わざわざライバルを増やすようなお人好しではなかったからだ。
「ふふっ。フロイド、貴方はぜひ今のまま純粋でいて下さいね」
「ん?」