第17章 迫り来るオクトパス
『もうジェイド!リドルは本当に私の事を心配してくれてたんだから、茶化さないで』
「これは失礼致しました。それより、早く僕を自由の身にして頂けませんか」
彼女は笑って、ジェイドの要望を叶えてやる。
フロイドは、さきほどから気が付いていた。
ローズとジェイドを包む空気感が、明らかに変化している事に。
向こうの世界で、2人の関係を変える何かが起こったであろう事は容易に想像が出来た。ジェイドがローズに向けていた敵意が、完全に消えているのだ。
お気に入りの存在である彼女を、平気で傷付けようとしたジェイドに対して怒りを覚えていたフロイドだったが。その敵意が既に無くなった事を悟った今、ジェイドを咎める必要は彼には無い。
「あ〜でもほんとに良かったぁ。おかえり、お姫様〜」
ベットに腰を下ろしているローズの隣に座り、今度はフロイドがきゅっと彼女を抱き締めた。
「おや、感動の再会ですね」
「どの口でキミが言うんだい」
ジェイドとリドルの会話が、抱擁を交わす2人の隣で冷たく行われていた。
ローズは、自分の体をすっぽりと包み込む大きな男の背中に ゆっくりと腕を回して囁く。
『…フロイドも、私の事を心配してくれていたの?』
「当たり前じゃーん。オレだって お姫様の事、ちょ〜大切なんだからね?」
フロイドは、より強い力を込めてローズの事を抱きすくめる。
『…そうなの?信じられないわねぇ、フロイドが私の事を大切に思ってくれてるなんて』
わざと挑発的な物言いをする彼女には、ある考えがあった。
「え?なにそれ。こんなに大切にしてんのに、信じらんね」
ニタリと笑うフロイドの口から、凶器的に尖った歯が覗く。
『へぇ、私の事を大切に思ってくれているのに…
じゃあどうして あの時…私の “ 宝物 ” を壊したりしたのかしら』
彼女の大切にしていた宝物。それは過去、マレウスから贈られたドラゴンを模したガーゴイル。
言わずもがな、あれは城に押し入った族により破壊された。
「お姫様の宝物…。あ〜そんな事もあったねぇ、あの時はゴメンね」
フロイドの答えを聞くと、今度はローズが微笑む番だった。
「フロイド!」
彼女の企みに気付いた瞬間、ジェイドは叫んだ。しかし…時既に遅しだった。