第16章 運命とガラスの靴
王子は、ガラスの靴を履いた娘の肩を 勢い良くガッと掴む。
「い、いやん王子様ったら積極的なん」
「ローズという姫を知りませんか!!」
「……は?」
喜びのあまり、今にも踊り出してしまいそうだった娘の顔が。一瞬にして凍り付いた。まさか他の女の名前が出て来るなど、思いもしなかったのだろう。
そんな不憫ですらある彼女をよそに、王子は相変わらずの圧で続ける。
「この靴は…っ、その女性が置いていかれた物。
きっとこの靴の持ち主ならば、ローズさんの事を知っているはず…!
お願いです、教えて下さい!僕はどうしても…っ、もう一度 彼女に会いた」
「知りません」
「……え、」
「そんな人、知りません。私」
自分の事が眼中に無いと分かってか、娘の態度は一転して冷たくなっていた。想い人を探す王子に対し、何度も知らないと あしらった。
「あの王子様、粘着質ですねぇ」嫌だ嫌だ
『うーん、ジェイドに言われたくは無いと思うけど』
きっと王子は、藁にも縋る思いだったのだろう。自分の前から姿を消した、愛しい人を探し出す唯一の手掛かり。それがガラスの靴。
まずは靴の持ち主を探し出し、そこから、なんとかローズに結び付けようと懸命に動いているようだった。
「…あれだけ想われれば、やはり女性はグッとくるものなのですか?」
ジェイドは珍しく、ローズに真剣な瞳を寄せた。
『…どうかしらね。私は、想われるよりも想いたい派だから。
でも…きっと彼のような人と暮らしていけたなら、幸せになれるでしょうね』
ローズは、懸命に自分を探し 奔走する王子に視線を向けて言った。
そんな彼女に倣って、ジェイドも前を見据えて言い放つ。
「そうですか。でしたら、ここで彼と幸せに暮らしてはいかがです?僕は止めませんよ」
『…はっ。また、思ってもいない事を』
ローズは鼻で笑って答えた。
「おや…バレましたか」
ジェイドは、柄にも無い事を言った。と思った。
いや、言ってしまった。のだった。
ついつい、生まれて初めての感情に 翻弄されてしまった。
まさか…自分が誰かに “ やきもち ” を焼く日が来るなんて。思ってもみなかったのだ…