第16章 運命とガラスの靴
鋭い瞳が、ローズを見下ろす。
そこには いつもの貼り付けたような笑顔は一切なかった。
『…分かった。私があたふたするところを見て また楽しむつもりなんでしょ』
「それも、楽しそうですね」
やはり、彼は笑わない。どうやらローズの予想は外れたようだ。
『私には、特に理由がないのに男性からキスを迫られるほどの魅力は無いわよ。そこまで自分に自信持ってない』
「それは、過小評価では?」
この世界に来てすぐ、ジェイドに言われた嫌味をローズは口にした。しかしそんな嫌味返しにも、ジェイドは乗らない。
そんな彼に、ローズはさらに探りを入れる。
『……まさかジェイド 理由も無く私に口付けをしたいなんて 思っちゃってるんじゃないの?
ふふっ。今さら私の魅力に気付いちゃった?』
勿論、これは本心からの言葉では無い。冗談のつもりで投げかけただけの、ただのお遊びだった。
しかしジェイドは、そんな言葉に予想外の反応を返すのだった。
「…自分でも信じられないのですが、恐らくそうなのでしょう」
『…………へ?』
さすがに眠気はもう既に遠くへ すっ飛んでいた。
いつもは装着しているグローブは、今は外されている。ジェイドの白くて長い 綺麗な指が、つぅ の彼女の赤い唇を滑る。
愛おしそうに。切なげに。相変わらず彼はローズを見下ろしている。
彼女もまた、その真剣な瞳を見つめ返す。
『…いいわよ。ジェイドの、したいようにすれば良い』
ローズが大きな瞳を閉じる。それをしっかりと見届けてから、ジェイドはゆっくりと顔を下ろしていく。
『でも、その前に私の質問に答えて』
ピタリと、ジェイドの動きが止まった。
『6年前。ディアソムニア城を襲ったのは…貴方達なの?』