第16章 運命とガラスの靴
『なっ、んっ、でっ!!
ここまで至れり尽くせりで用意してくれてるのに、ベットが1つだけなの!』
頭を抱えるローズをよそに、ジェイドは愉快そうだ。
「もしかすると、僕達を恋仲だと思って気を利かせてくれたのかもしれませんね」
『…そうだとしたら、見る目なさ過ぎね。あの魔法使い』
しかし、いくら悪態をついたところで 目の前に新しく寝床が現れるわけではない。
早々に諦めてローズは、先にベットへと体を滑り込ませる。そして奥へと体を寄せると 余ったスペースをジェイドに差し出す。
『どうぞ』
「…いいのですか?」
『ジェイドだって疲れてるでしょ。そんな貴方に床で寝ろなんて、私そこまで鬼じゃないから』
「それは…お優しいことで」
ジェイドは空けられたスペースに、自分の体を横たえる。
お世辞にも大きいとは言えないベット。セミダブルくらいだろうか。かすかに互いの腕が触れ合う。
自分の体温が、いつもよりも少しばかり上がっているように感じるのは 気のせいだとジェイドは決め付けた。
「…それにしても、2度も唇を奪われた相手と就寝を共にするなど…さすがに警戒心が薄いのでは?」
天井を見上げ、ジェイドは言ってみた。
寝付くまでの沈黙が なんとなく気まずかったから。という理由で言葉を紡いだに過ぎない、不毛な会話。
『仕方が無いじゃない…。ベットが、ひとつしか ないんだから』
ころりんと寝返りを打つローズ。体と顔が、ジェイドの方を向いた。
既に眠そうな彼女を、信じられないという目で彼は見つめた。