第16章 運命とガラスの靴
意外にも、城とシンデレラの住居は そんなに距離は無かったようだ。徒歩でも 充分夜のうちに帰って来れた。
しかし、そこに魔法使いの姿は無かった。
『うう、ここに帰って来れば ゴッドマザーに会えると思ってたのに…。
そしてあわよくば今日の宿を工面してもらおうと思ってたのに…』
ガックリとあからさまに肩を落とすローズにジェイドは声をかける。
「おや、貴女 意外と強欲な方ですね」
ふと視線を周囲に配ると、ジェイドはある違和感を覚える。
「…あんな場所に、建物がありましたか?」
『??あれ…本当ね。私も見覚えがない』
ここから少し離れた場所。そこに現れていたのは 小さな家。2人の記憶では、ここには家など建っていなかったはずだ。
不思議に思った2人は、その家の前に移動する。
扉には張り紙。そこには、こう書いてある。
《 お勤めご苦労様。ローズ、ジェイド。今夜はここに泊まって下さい 》
読み終えた2人は、嬉しそうな顔を互いに突き合わせた。
扉を開けて中に入ると、ひとりでに暖炉に火が焚べられていた。加えて 温かい食事に、さらには浴槽になみなみと湯が張られているという大サービスっぷり。
「…これだけ盛大な魔法力…。何か制限は無いのでしょうか。些か不安ですね」
『あー…、夢の国だから何でもありなんじゃ?』
「貴女のそういう異様に高い順応力は見上げたものですね」
2人は順番に入浴を済ませ、温かいシチューを頂く。
『そういえば ジェイド、私の新しい名前知ってたのね』
「…ええ、ハーツラビュルの王子様が 何度も呼んでいるのを聞きましたから」
取り留めのない会話をしながら、食事を終える。そしてその後は、早々に就寝をする事に決めた。体は正直で、2人は押し寄せてくる疲労感に抗えない。
しかし、いざ眠るとなると やっと重大な事実に気が付いた。
本来、2つないといけない物が ここには1つしかないのだ。それは…ベットである。