第16章 運命とガラスの靴
「ハッキリ、申し上げておきましょうか。彼女は、貴方に興味が無いと、言っているんですよ」
ローズはジェイドを見上げる。目は三日月型に歪み、口角がニヤリと意地悪そうに上がっていた。
その表情を見て分かった。彼は、王子の心とプライドを完全にへし折るつもりなのだと。
「…貴女の口から 教えて差し上げては?
ローズさんの、胸の中にいる人物が…一体 誰なのかを」
王子の瞳が、不安に揺れる。背反、ジェイドの目は さも愉快そうに光っていた。
ここで王子が自分に好意を抱いてしまうなど、言語道断だ。だから…彼女の答えは決まっていた。
不本意ではあるが、ここはジェイドの口車に乗る他ない。
『…王子様、ごめんなさい。私は…ジェイドの事が好きなの』
ローズが言うと、ジェイドは満足そうに瞳をにっこりと閉じる。そして…
「ふふ…、こういう事 なんです」
罪悪感の残る彼女の口元に、キスを落とした。
『っ、!』
ここまで、するか…とは思いながらも。拒絶はしないでローズは目を瞑る。彼のキスは、とても優しかった。前回のそれとは 格段に違っていた。
人を欺く為のキスなのに、こんなにも優しく出来るのもなのだろうか。と、ローズの心は騒ついた。
ジェイドが丸めた背中を真っ直ぐに正すと、固まっていた王子の時も再び動き出す。
「…今日のところは、引こう。
だが…諦めたわけではない。きっと僕は、貴女を見つけ出す」