第16章 運命とガラスの靴
彼女の言葉を聞いた瞬間に、ピタリと王子のステップが止まる。
淀みなく動いていた足が急に止まり、ローズは顔を思い切り王子の胸にぶつけてしまう。
『っぶ、…!あ、ごめんなさい、止められなくて』
鼻面をおさえて謝罪するローズの手を引きながら、王子は言う。
「…話したい事があります。どうか、こちらへ」
むしろ話がしたいのはこちら側なのだ。これは願っても無いチャンスだ。
ローズは王子に手を引かれながら、脇でダンスを眺めていたジェイドに向かって グっと親指を立てる。
その顔は、してやったりという表情で。なんとも満足気だ。
「…ふふ、あの人は本当に…。絶対に気付いていませんね。自分から話をややこしくしている事実に」
ジェイドは仕方なしに、2人の後に続いてテラスへと向かった。
テラスから見える月は、もう随分と高いところにある。いつのまにか、かなり時間が経っていたようだ。
もはや作戦の完遂は目前。早いとこ王子に例のモノを王子に渡してしまおうと考えるローズ。
しかし、彼女は思い至る。
『あ、』
そう。ガラスの靴はジェイドに預けてあるのだった。それを思い出した彼女は、踵を返してホールへ戻ろうとする。
「待って!」
そんなローズの腕を、王子が掴む。
彼の真剣な顔が、真っ直ぐに彼女を捉えた。
「どうか、行かないで。僕の話を、聞いて下さい」
その綺麗な瞳を真正面から受けて、ローズは初めて気が付いた。
『………』
(あ、これ ヤバイやつかも)