第16章 運命とガラスの靴
さきほどのジェイドとのダンスも、かなり注目を集めたのだが。やはり王子との一曲はそれ以上だった。
もしかすると、この王子がダンスフロアで踊る事は 割とレアな事態なのかもしれない。
『…王子様、どうして私が姫だと分かったのですか?』
「あはは、分かりますよ。貴女の踊りを見ればね。幼い頃から、しっかりと訓練されたダンス技術でしたから」
なるほど、と彼女は思った。
さきほどローズが、女性に囲まれた王子を見てシンパシーを感じたように。王子もまた、ダンスを踊るローズを見て自分と似通ったものを感じたのだろう。
「お名前を…お伺いしても良いですか?」
ゆるゆると体を揺すりながら、2人はゆったりと会話をする。
『これは失礼致しました、私はローズと申します』
「…ローズさん…。名前まで、お美しいのですね」
王子は、握っているローズの手を口元へ寄せると。軽く唇を落とした。
こんなものは挨拶のようなものなのに、それでも周りで見ている女性陣からは大袈裟な声が上がった。
『…ふふ、やっぱり王子様は、おモテになるんですね』
柔らかく微笑むローズだったが、王子の表情は些かぎこちない。
『……大丈夫ですよ』
「え?」
ローズは視線を上げて、王子の目を見て言葉を紡ぐ。
『私と貴方は、凄く似ています。でも、だからこそ大丈夫だと言える事があるんです。
たしかに今、貴方の周りにはたくさんの人間が取り巻いていて…全員が全員 純粋な気持ちで近付いて来てるわけじゃない。
でも…絶対に、そんな人ばかりじゃないから。ほんの一握りだけど、王子様の事を大切に思ってくれる人も、混じってるから。
権力や王権とは関係なく、貴方自身を見てくれる人が…絶対にいるから』