第16章 運命とガラスの靴
「…あの方は」
ずっと色の無かった王子の瞳に、初めてハッキリと色が宿った。
王子を取り囲んでいた女性達も、うっとりとジェイドの美しいフォームに見惚れている。
「えぇっと、あのお方は…。どこかの姫君かな?少々お待ちを…」
そう独りごちたのは、王子の隣に控えていた大臣だ。必死にモノクルを覗いて、長い来賓リストの中からローズの名前とおぼしき文字を探している。王子はしばらく大臣の返答を待っていたが、なかなか答えを出さない事に痺れを切らす。
「もういい、直接行って確かめてくる」
王子が立ち上がった瞬間、周りにいた女性達は我に返る。ジェイドに見惚れてしまっていた為に 本命である王子が席を立ってしまい、ガッカリ顔だ。
しかし打って変わって大臣は意気揚々と その様子を見つめていた。
「お、王子様がついに女性に興味を示して下さった!!これは実に喜ばしい!」
ローズの手を引きながら、横目で王子の接近を確認したジェイド。
「…どうやら、上手くいったようです」
ジェイドがくるりと体を入れ替えてやると、王子の近付いてくる姿がローズにも見えた。
『うん、ジェイドありがとう。もうダンスは大丈夫』
2人が大広間の脇に下がると、すぐに王子がやってきた。
彼は胸に手をあて、ローズに向かって頭を下げる。そしていかにも王子様っぽく こう言う。
「麗しい姫君。どうか僕と、一曲踊って頂けませんか」