第15章 忍び寄る海のギャング
「………」
目の前を、ガシガシ歩くローズを ジェイドは不思議な気持ちで見つめていた。
スカートの裾を泥で汚し、髪に蜘蛛の巣を引っ掛け、大股で歩くお姫様。少なくとも彼が見慣れた王族とはかけ離れた姿だった。
「どうして、貴女はそんなにも頑張っているのですか?」
『え?だって夜までに家の1軒くらいは見つけたいでしょ?』
質問の意図が伝らなかった事に、少しだけイラっとした。
「いえ、そういう意味ではなく…。
貴女は、どのみち1年以内には眠りにつく身の上でしょう。ここにいれば、もしかすると呪いの効力は及ばず…生き長らえる事が出来るかもしれませんよ」
彼女には強制的な眠りが迫っている。そんな人間が、どうしてこうもバイタリティに溢れているのか?
どうしてそんなにも必死で、わざわざ厳しい現実が待つ場所へ帰ろうと努力するのか。ジェイドには理解出来なかった。
『あら、だって私にはリリアの魔法…』
うっかり口を滑らせそうになったローズ。危ないところであった。
愛する者との口付けで、彼女が目覚める事は 簡単に人に話して良い事ではない。
「はい?」
『なんでもない。
それに、帰りたい理由ならハッキリしてる』
ローズはまた前を向いて、歩き出す。すると、その背中をまたジェイドは追いかける。
『だってここには、皆んながいないもの。リドルやトレイ、デュースやフロイド。それに…』
(マレウスも、いない…)
城が襲撃された際、彼女の事を守ってくれたマレウス。ローズは彼の事を思い浮かべるだけで、胸の中がふわふわとするのだった。
出来る事なら、また会いたい。ずっと再会を望んでいるのだ。
まさかその男が、自分に呪いをかけた張本人だとは知らずに…。