第15章 忍び寄る海のギャング
「あぁ、お可哀想に…。大丈夫ですよ。夢の国は、きっと素敵な場所です。
もし可能なら、僕も一度見てみたいものですね。夢の国とやらを」
「それならさぁ、ジェイドも見に行ってくれば〜?」
ずっと黙りこくっていたフロイドが、満面の笑みで言い放った。
「…?」
ジェイドは、やっと自分の体の異変に気が付いた。
気が付くと同時に ほとんど空になったカップを手から滑らせてしまう。
ガシャンと大きな音を立てて、それは地面に叩きつけられて粉々になった。
「…フ、フロイド、貴方まさか」
「アハッ、金魚ちゃんと協力して 紅茶の中に入れちゃったんだよねぇ。コレ」
フロイドは、ジェイドに見せつけるように 手の中で薬瓶をフリフリと動かした。
ジェイドは咄嗟に自分の胸ポケットを抑える。そこには、あるはずの小瓶がなかった。当然だ。今 目の前の男が手にしているのだから。
「…いつの、まに」
急激に襲ってくる睡魔に争い、ジェイドは言葉を吐く。
「そういう事だ。責任を持って、ローズを連れ帰ってくるんだよ?さもなければ…
お分かりだね?」
椅子から降り、両膝をついたジェイドを。狂気の孕んだ瞳で見下げる2人。
「…君の体がこちらにある事…忘れるんじゃ無いよ?」
どこから用意したのか、荒縄を見せつけるリドル。意識を失ったジェイドを縛るものだというのは 容易に想像出来た。
「もし1人だけ帰ってきたりしたら〜…
例えジェイドでも、何しちゃうか分かんないかも オレ。もしかしたらキレちゃうかもねぇ」
まどろむ意識の中、ジェイドは思う。
危険な薬だと分かっていながら、自分に服薬させた時点で 既にキレているではないか…と。
それにしても、ここまでフロイドをローズが懐柔していると思っていなかった。
一時の退屈しのぎのオモチャに過ぎないと、彼は予想していたのだが…。
フロイドは、かなり彼女に執心しているらしかった。何故、そこまでローズに入れ込む?
ジェイドには、どうしても理解出来なかった。フロイドが、自分たちの悲願達成よりも彼女を選んだ事が、信じられなかったのだ。