第14章 我儘になりたいクイーン
ローズは、膝を折るリドルと、威圧的な女王を見て 全てを理解した。
さきほどトレイから聞いた話と、今目の前で起こっている事態が見事に合致したのだ。
「なんですか!約束もなく勝手に私の前に現れて…!
それに、その薄汚い格好…。
“ 女王の前では、常に正装を纏う ” に、違反していますよ!」
予想を越える下らなさに、ローズの怒りはますますヒートアップする。
『なんですか、その下らないルールは!
そんなもの、私がスコーンの間に挟んで食べてあげるわよ!』
「な……っ、なん…なんですってーー!?」
女王は、顔を真っ赤にして こめかみに大きく血管を浮かべて。今にも彼女に突進していかんとしていた。
あまりに唐突な展開に、周りにいる家臣達は泡を食うばかり。
そんな中、リドルだけは冷静だった。
「…ローズ、やめるんだ」
リドルは、ごくごく小さく彼女の名を呼んだ。
女王に歯向かえば、彼女はただでは済まない。それが分かっている彼はローズと女王の間に陣取る。
「このっ、この小汚い無礼な小娘は一体…なんなの!誰なの!
名を、名を乗りなさい!!」
女王の金切り声に全く怯まず、ローズはスカートの両端をちょんと摘んで、片足を引き小さくお辞儀をする。
『これは女王陛下。大変失礼致しました。
私の、名前は…』
「駄目だ!言うんじゃない!ボクの声が聞こえていないのかい!?」
『ディアソムニア国 第一皇女 ローズと申します』
しばらくの沈黙の後、壊れたように女王の笑い声が部屋にこだました。
「…あは…あはは!!あはははは!!わざわざ、ここに首を跳ねられに来てくれたの!?」
「ローズ。逃げるんだ。ここは絶対にボクが抑えるから。君は早く行くんだ」
ローズをそっと背中に庇い、扉から逃げるように促すリドル。
彼は、この場にローズが来てくれた事が 本当に嬉しかった。
折れかけていた自分の心を、名前を呼ぶだけで簡単に蘇らせてしまったのだ。
これ以上、何を彼女に望もうといおうか。