第13章 絡みつく海のギャング
ローズとデュースが、自分を差し置いて仲良く話をしている。
そんな光景を目の当たりにした瞬間。フロイドの熱は簡単に冷めてしまった。
「馬鹿じゃねぇの?無精卵からひよこが孵るわけねーじゃん」
『え、』
「でも現に今ここに」
フロイドは、隠した卵を再び取り出した。
「そのひよこはねぇ、俺が用意したの。
アンタらが必死に温めてたのはコッチだから」
そう言ってフロイドは、卵を持っている手をくるりと翻した。
自由落下を始めた卵は、ぐしゃりという音を立てて地面へと叩き付けられる。
悲しそうな目で卵を見つめているローズとデュース。
「あはは〜ガッカリしたぁ?アンタらは俺に騙されてたんだよ?」
フロイドは、冷ややかで意地の悪い笑みを口元に浮かべていた。
『………』
「……コラ」
デュースはつかつかとフロイドの前に歩み出て、ガッとチョップをかました。
「いったぁ!鯖ちゃんが殴った!」
「食べ物を粗末にするんじゃねぇよ」コラァ
「えぇ〜〜……食べる気だったの?あんなに大切に温めてたのにぃ?」ひでぇ
「ひよこが産まれないなら、食うだろ!!」
「腐ってるってとっくに」馬鹿じゃん
まさかのデュースの反応に、フロイドは不覚にも面食らった。
『フロイド…ありがとう』
そして、まさかの反応を見せる人物がもう1人。
『私とデュースの為に、一生懸命ひよこを見つけて来てくれたのね。
ありがとう。フロイドは…優しい』
「………そうじゃない、でしょ。
はぁ…。お姫様も、やっぱり馬鹿じゃーん」
優しい。
ほとんど自分には向けられた事のない類の単語。
その言葉は、いつまでも彼の胸に
むず痒い痛みとなって しばらくの間残っていた。