第12章 貴女の心が欲しいスペード
デュースが森の家に到着したのは、ちょうどトレイとローズがクッキーを食べ終わったくらいのタイミングだった。
「お、デュース来たか。早かったな」
「うす。お疲れ様です」
この時ちょうどローズは台所で片付けをしていた為、席を外していた。
「例の物は買えたか?」
「っえ!?」
デュースは咄嗟に、ポケットに入れたネックレスを 布地の上から確かめる。
焦る彼を、トレイは不思議そうな瞳で見つめている。
「?頼んだだろう、卵と薄力粉…」
「あ…あぁ!そっちですか!そうですよね。
それならバッチリこの通り…!」
「ありがとうな。助かったよ」
その時、台所からパタパタとこちらへ近寄ってくる足音が。
『デュース!早かったのね、おかえりなさい!』
彼女は、いつも彼等を迎える時には おかえりなさいと挨拶する。
デュースはこの言葉に、ただいま と答える事が好きだった。
自分が存在する理由が、ここにあるような気がしたから。また、自分がローズにとって必要とされているような気がしたから。
「うん。ただいま」
『見てデュース、このクッキー!私とトレイが焼いたの。
これはデュースの分ね』
差し出された皿の上には、歪な形のクッキーと。まるで市販品のような綺麗な形のクッキーとが並んでいた。
どれを誰が作ったのかは、一目瞭然だったが。
デュースは迷う事なく前者のクッキーを手に取った。
「…随分と、…えっと、独特、いや特徴的…変わった形…じゃなくて、…ユニーク!ユニークな形だな。美味しそうだ」うん
言葉を選びまくったデュースを見て、トレイは吹き出しそうになるのを堪えていた。
『味は美味しいんだから』
デュースは手に取ったクッキーを改めて見つめる。そんな彼に、トレイは質問を投げかける。
「デュース、それ、なんの形だと思う?」
細長く、うねうねした形状。
「……ヘソの緒?」
「おぉ、正解!」
『大不正解よ!!』