第12章 貴女の心が欲しいスペード
(……5マドル足りない)
ネックレスの価格は、彼の所持金よりも5マドルだけ高かった。
しかし…幸いか災いか、彼はもう1つ財布を所持していた。
そう。リドルから、食料品を買うために預かった…いわゆる経費である。
(優等生になると決めた俺が、まさか預かったお金をチョロまかすなんて出来るわけが…。いや考え方によっては借りるだけで、後でちゃんと返せば…。あぁでもこれって違う意味では横領に)
彼が迷っているのは、5マドルをネコババするかどうかだった。
「ねぇお兄さん!買っておいた方がいいって。実はこれ人気商品で ラスト一点だし、次はいつ入ってくるか分からな」
「うるっせぇなちょっと黙ってろ」
「ひぇっ、」
まるで人を3人は殺しているのではないか、というくらいの目付きで。デュースは露店商を睨み付けた。
そこへ、新たな人物が2人の間に割って入った。
「あの…そのネックレス、もし貴方が買わないのなら私が頂いても良いですか?」
「「え?」」
1人の女性が 財布を胸の前で持ち、露店へやって来たのだった。
「実は…以前、私のお友達がこちらの店のネックレスを購入したらしいんです。
そのおかげで、ずっと片思いしていた方と恋人になれたとも話していました」
その女性は、男が持つネックレスを見て そう話した。
「そうか、俺は別にどっちが買ってくれてもいいぜ?
まぁでも、こっちの兄ちゃんは買う気は無さそうだけどな」
男と、女性の視線がデュースの方に集まる。
4つの視線が集まる中、彼は口を開く。
「お、俺が…買います」