第2章 オッドアイを保有する兄弟
『…………………』
「まぁ姫様!またこのような場所にっ」
従者が驚くのも無理はない。
彼女が今いるところは、城の1番奥深くにある地下室。
そこには、この城に似つかわしくない物が鎮座していた。
それは…
漆黒のドラゴンを模したガーゴイル。
彼女はしばしばここに入り込んでは、大きな瞳でそれをじっと見上げているのだった。
『どうして、お父様とお母様はこれを外に飾らないのかしら』
「え…っと、それは、ですね」
女従者は口ごもった。まさか彼女に、不吉な贈り物だからここに安置しているのだ。などと言えるはずもなかった。
彼女には、これがマレウスからの贈り物だという事は伏せられている。
それどころか、彼等の存在すらオーロラは何も聞かされていなかった。
徹底的に隠されていたのだ。
悲しいかな、あの生誕祭から9年経った今でも、彼等はこの国の鼻摘まみ者だという事…。
このガーゴイルも、バラバラにして破棄してしまえという声もあるにはあったのだが。
粗末に扱えば呪われるかもしれない。などと訴える者がいたのだ。
他にも、これを壊せばマレウスが報復に来るかもしれない。という声もあった。
そういう理由から、このガーゴイルは
捨てられるでもなく、本来の用途である雨樋として使われるわけでもなく。
ただただこの暗くて冷たい場所に安置されるに至った。
『私…これ、結構好き』
「ひっ、姫様!どうしてですか…」
予想もしていなかった言葉に、女中の声は上ずった。
『どうして…かは分からないけど。
眺めていると、なんだか心が温かくなるの』
従者は
9歳になったお姫様の綺麗な横顔を、心配そうな顔で見つめる。
彼女は、まだ幼いというのに。時にハッとさせられるほど美しいのだ。
しかし…王族にしてはかなり変わっている。と従者は思っていた。
それはこの城に仕える者達、全員の総意だった。
オーロラは
贅沢を嫌い、装飾品や服は簡素な物を好んだ。
城の中に閉じ籠っている日は少なく、出来るだけ外に出た。
絵を描くよりも、走り回る事が好き。
自然を愛でるよりも、木に登る事が好き。
そう。一般的なお姫様にしては、元気すぎるのだった。