第8章 なんでもある日のパーティ
「料理は出来るのか?」
『……………』
「よし分かった。じゃあここのクッキーを皿に並べてくれるか?」
カンの良いトレイは、彼女の沈黙から全てを察した。
一国の姫であるローズは、生まれてこのかた料理などした事はないのだ。
料理どころか、包丁を握った事もなかった。
『…ごめんなさい。お料理も、これから頑張って覚える』
しゅん、と俯き落ち込む彼女を見て トレイの胸は図らずしも、鼓動が早くなった。
長い睫毛が切なげに伏せ、その美しい唇からもれる吐息。そんな姿がとても儚げに見えて…。
これくらいの事でドキドキさせられてしまうなんて。自分は意外と簡単な男なのかもしれない。そう感じた。
『トレイ?怒ったの?怒ってるの?』
沈黙を貫くトレイを、恐る恐る見上げるローズ。
彼は慌てて否定した。
「いや、違う違う。悪いな、ちょっとぼーっとしてた」
まさか正直に、しおらしいローズを可愛く感じて見惚れていた。などと答えるわけにはいかず、そう答えた。
「それに、俺も別に凝った物は作らないぞ。
出来合いのクッキーに、フルーツ切ったり…あとはまぁ、作ってもサンドイッチくらいだな」
トレイは気を引き締めて、果物にナイフを入れる。
『……ふぅん、そうなの。でも、なんだかトレイ…』
「っ、!?」
トレイは思わず、手にしていたナイフを取りこぼしそうになる。
それもそのはず。隣に立っていたローズが、急に自分との距離を詰めて来たのだ。
すんすんと鼻を鳴らしながら、自分の首筋あたりの空気を吸い込む。
これにはさすがのトレイも面食らい、取り乱す。
「な、なにを、してるんだ?///一体」