第8章 なんでもある日のパーティ
ようやくトレイとの距離を、正常に戻したローズ。
『前から思っていたんだけど、なんだかトレイって…
美味しそうな匂いがするの』
「……は?」
言うまでもなく、いま彼の頭の中はこんがらがっている。
気になる異性から “ 美味しそう ” と言われてしまった。これは一体どういう事だろう。まさかとは思うが、自分は誘われているのでは?
そんな事を考えてしまうくらいには混乱していた。
『美味しそうな、お菓子みたいに!あまーい匂いがするのよね』
「…あぁ…はは。なんだ、そういう事か」はぁ
『??』
フルーツのカットを再開しながら、トレイはローズに話を始めた。
「俺の実家が、ケーキ屋なんだ。もしかすると、その匂いが染み付いているのかもしれない…。
いやそれにしても、そんな事を言われたのは初めてだがな。
ローズの鼻、効きすぎじゃないか?」
『わぁ、ケーキ屋さん…なんて素敵なの…羨ましいっ…。
じゃあトレイは毎日ケーキが食べられるよね…』
うっとりとした瞳で、彼女はトレイを見つめる。
「あのな、商品を毎日食べるわけないだろ?
簡単な手伝いくらいはしても、1人でケーキを焼いた事はないぞ」
半ば呆れながら、ローズを見つめるが。
彼女はそんな事は全く意に介さない様子で、未だにケーキ屋さんに想いを馳せている。
「……そんなにケーキが好きなのか?ローズは」
『うん!大好き!ケーキもタルトもキッシュもパイもタルトタタンもマドレーヌもカヌレもスコーンも、ぜんっぶ好き♡』
「……ぷっ」
あまりにもローズが、とびきりの笑顔で甘い食べ物の名前を並べるものだから。
トレイはその熱意に当てられて吹き出してしまう。
「ははっ、分かった分かった。
ローズがそんなに甘い物が好きなら、今度挑戦してみるよ。
その代わり、上手くいかなくても文句言うなよ?愛情だけは、思い切り込めてやるから」