第7章 七色の企てと違和感 ー青と黄ー
秀吉と三成との城下への散歩から数日が経った。自室で信長に送る小袖を仕立てていたあさひが手を止め、立ち上がる。
「お水でも飲みに行こう。」
廊下へ出ると、城の慌ただしさが増しているようで、数日前の違和感があさひの中を、徐々に占めていく。
(なんかあるのかな…)
台所の側まで来ると、釜戸に向かいながら筆を執る政宗の姿が見えた。
「あ、政宗。」
ガタン!
あさひの声に驚いた政宗が筆落とし、よろめいた拍子に書いていた書類を落としていた。
『お、あ、あさひか。なんだ、どうした?』
(いつもならこんなに驚かないのに…
また? 政宗も変。)
「お水、飲みたくて。驚かしてごめん。」
そういうと、政宗が落として散らばった筆や書類を拾おうとした。
『あさひ、大丈夫だ。』
手早く政宗は片付けてしまう。
「あ、これは?」
見たことのない本が、政宗の後ろがわに落ちていた。
手に取ろうとした瞬間。
『それは、だめだ!』
急な大きな声にあさひが驚く。
「ごめんなさい…。」
『あ、いや、大声だしてすまなかった。びっくりしたよな。悪い悪い。』
政宗の大きな手が、あさひの頭を撫でた。
(やっぱり、なんか変だよ。)
「邪魔してごめん。部屋へ戻るね。」
表情を曇らせ背を向けたあさひを、政宗が呼び止めた。
『いや、俺が悪いんだ。
三成に南蛮の料理書を見付けてもらってな。面白そうだから、味付けとか試してたんだ。』
「その本が南蛮の?」
『あぁ、でも皆には内緒な。まだうまく作れるかわからないし。お前も見ちゃ駄目だ。』
台所には、味見をした後なのか小鉢や調味料が沢山並んでいた。
「政宗は勉強熱心だね。」
『お前の喜ぶ顔が見たいからな。』
「え? またそういうこと言う!」
『いつもそう思って作ってる。』
(このくらいは、言ってももおかしくないだろ。
怪しまれたら不味いしな。)
『そうだ、お前の時代で好きな飯ってなんだ?』
「急に何?」
『ここにある食材で、なんか作れないか?
お前が好きなもの。』
「そうだなぁ…。あ、フライドポテトとか?」
『ふら、いど?』
「お芋を素揚げにして、いろんな味付けで食べるの。」
『へぇ。天麩羅みたいな感じか?』
「衣は付けないんだよ。」