第9章 学生編・終夏のMute
聞けばこの二人…黄音と夢ノ咲学院のこの赤髪の大きい人は顔見知りらしい、と言うのも黄音は去年まで高校生で部活の試合やらなんやらで何度か顔合わせた事がある程度らしいけども。
「懐かしー!アカネサン以外で俺に一発入れたのはまだお前だけだぜ…つーかよく俺だって分かったな」
「いや…正直分からねぇけど…やり合ってるの見てたら動きが五斗さんっぽかったんで」
成程。黄音の動きに癖は殆ど無いけど動きを見てゴトちゃんって分かったって事はこの人もだいぶ喧嘩慣れしてるんだろう。
「ねぇアカネさん」
『………んだよ』
「時間、大丈夫?明日テストでしょ?」
と小さく耳打ちしてくる紫音。腕時計を確認すると20時前。化粧と髪の毛落として着替えて40分自宅まで帰るのに一時間…帰ったら22時。正直時間の余裕が無い。
『大丈夫じゃねぇよ帰る』
「じゃあ後の片付けは俺達に任せといてよ」
『でもその前に』
※※※
カツカツとブーツの音を鳴らしながらベースの朱音が池上先輩とドラムの黄音の前に立つ。身長は170cmくらい………否、このブーツはインソールだな。それに…何だこの違和感は。風貌も言葉遣いも声も男なのに何かが違う。
-グイッ-
一同「!?」
そんな事を考えていたら朱音が二人の胸倉を掴み上げる。
『社会人組が揃いも揃って素性バレてんじゃねぇぞクソ野郎』
「やーん、怒らないで朱音様」
「すまねぇって…」
社会人組が揃いも揃って。つまりボーカルの紫音とベースの朱音、キーボードの藍音は学生と言う事か。
『次何かやらかしてみ?武器ぶん回すからな』
「「心得てます」」
『ったく頼りない年長しゃっ…ごほっごほっ』
一同「!?」
と激しく咳き込むと蹲る。それを支えようとするメンバーの手を払い除けると落ち着かせる様に小さく深呼吸をして息を整え、何事も無かったかの様に立ち上がってステージ裏まで歩いて行くとステージ裏からキーボードの藍音が顔を出す。
『アカネ大丈夫?今、迎え頼んだから家まで送るよ』
『御免。有難う藍音』
と安心した様に脱力するベースの朱音をキーボードの藍音はその小さな身体で自分よりも大きな人間を軽々と担いで此方を見る(多分)。
『アンタ達、明日のミーティング覚えておきなさい』