第7章 学生編・終夏のAudience
池ちゃんが紫音に声をかけた時点で何となく嫌な予感がした。いやまぁ別に嫌って訳では無いけど何かあらぬ方向に転がるのでは無いかと容易に想像が付いた。
「お待たせ~」
一同「!!!」
金髪オールバックにティアドロップのサングラス。NoGenderのリーダーである紫音が多少息を乱してメイクボックスを抱えながらVIP席に来た。
「マジこれ重いんだけど?つーか、うわ…和音さんの後輩だけあって美男子揃いだなー」
「ちゃんと面識があるのは例外除いて三年生だけだけどねぇ」
「ふーん…てか何でメイクボックス持ってこさせた訳?………姫さんが怒るよ?」
「ここでメイクして貰おうと思って」
やっぱりね。そんな事だろうと思ったよ。
『オカマしてても結局は男よね。格好付けたがり』
「まぁ僕は姫さんが良いなら構わないけどー」
メイクボックスを机に置くとアタシと入れ違いでバーカンに入って来た紫音がすれ違いざまにセットするための道具一式が入ったポーチを手渡して来たから受け取って腰に巻く。
「大丈夫、他の子はちゃーんとワタシが守るから」
「あの…イマイチ話が見えないですが…」
と困惑する皆を見て池ちゃんは口角を吊り上げる。
「ワタシ、NoGenderのギター担当の空音なの」
一同「えっ」
「そして姫様はただのマネージャーじゃないのよ。ワタシ達NoGenderのメイクアップとヘアセットの担当もしてもらってるの」
一同「ええっ」
※※※
『上向いて』
「ん」
『次、下』
「はい」
『はい、終わり。カラコンは自分で着けてね』
「はーい」
ものの五分で化粧を終え、その変わり様に皆は唖然と口を開く。
「凄いな…たった五分でこんなにも変わるのか…」
「性別不詳度が上がったな」
「まぁね~ワタシ、女の子の藍音より美人だしぃ」
『ほらじっとして。髪の毛がまだ終わってない』
そう言って池上先輩の頭を鷲掴むと髪の毛を結い纏めていたヘアゴムを乱暴に取る。
「痛っ!?姫様もっと優しく…」
『はい?』
「やだもう姫様、素敵っ」
そんな言葉を無視してアイロンの電源を入れて分け目を整えると素早く右半分を刈り上げ風に編み込んで行く。