第31章 学生編・中秋のAbend
反抗期を迎える前の仲良し兄弟の時はお兄ちゃん呼びだったんだね。成程…ちゃんと可愛いところあるじゃないの、って言っても一学年下だし同い年だけど妙に甘え上手で弟っぽいところあるから当然か。
『ふふふ、仲良き事は美しきかな』
「仲直り?したんですか?」
『いやいや、元々仲良しだと思うよ。大方構い過ぎる兄と、それが鬱陶しい反抗期の弟って感じ』
「?」
『あんずちゃんはご兄弟いらっしゃる?』
「弟が…」
『そっか!お姉ちゃんなんだね。弟君が可愛くて仕方ないでしょ?』
「はい!」
『でも弟君的にはそれが少し照れ臭いのよ』
「成程…!」
理解出来たようにポンと手を叩くと嬉しそうな苛立たしそうな難しい表情を百面相する。
『下の子は上の子の気持ちなんて理解出来ないし、上の子は上の子で下の子の気持ちは理解が出来ない。だから真ん中は世渡り上手なんだろうね』
「奥が深くて勉強になりますっ!」
多分間違った事は言ってないと思うんだけど、そこまで素直に純粋捉えられたら間違えたらどうしようって不安になる。
※※※
『んー!楽しかった!』
「アイドルのライブも良いもんだね!」
と賞賛を並べてくれる下宮さんと椎名くん。最初から最後までライブを観覧してくれた二人と違って桜音さんは朝から皆のメイクで働き詰めだしライブが始まってからも、ずっと舞台裏で待機をしていた。だからか皆とそれなりに仲良くなったみたいで観客が撤収し終えて僕達も少し片付けたら帰ろうか、と言うのに皆に囲まれていた。
「彼女は人気者だね」
『どちらかと言うと近寄り難いタイプだと思うけど』
「ほら、やっぱり芸能系は特殊なんだよ。皆、肝が座ってんなー…」
俺なんか当初は絶対関わりたくないって思ってたのに、と何かを思い出したのか顔を青くして身体を抱え込む。
「当初?」
「そ。出会った当初は俺の先輩、レントとバッチバチにやり合ってたから」
『当時は姫も少し荒れてたからねぇ…喧嘩っ早いとこはあったかな』
女の子が喧嘩…それはちょっと未知の世界過ぎる。しかも黄音くんとなると夏休み終わりのライブの時に朱音くんとやり合ってたし優秀なボディガードくらいの身のこなしだったと思うし。
「………あれ?」
『「?」』