第31章 学生編・中秋のAbend
別にアイドルなんかには興味無いし私の好きな音楽とは系統も違う。だけどステージの上で歌って踊る皆を見てたら凄いな、って素直に感心する。歌いながら踊るのも踊りながら歌うのも凄く体力を必要とするだろうし…皆、終始笑顔を絶やさない。
「ペンライトの振り方分かんねぇ…俺達アウェイだよな」
『ん~…そうだね』
「俺達も踊りとか取り入れてみる?」
『馬鹿なの?楽器弾きながら踊れないって』
まぁ椎名は基本的にボーカルのみだから普段のライブでもよく動くし踊ろうと思えば踊れる。姫とオカマも割と良く動くけど踊るのは難しいだろうし、私とゴトーパイセンなんかは定位置から動けないから踊りなんて論外。そもそも歌うのも無理。
「冗談だって。しかしまぁアウェイだけど、これはこれで楽しい」
『系統は違うけど学べるところはあるよね』
「姫さんも気ぃ使って控えずにライブ観れば良かったのにね」
『姫は責任感が強いから』
※※※
『はい終わり』
の声を聞いて目を開ければ双子が鏡を向けてくる。ふむ…確かな腕前。丁寧かつスピーディ。プロのメイクさんにも負けず劣らず。
「姫さんって器用ですよね」
『そう?』
「お化粧も上手だし~」
「子供あやすのも上手だし~」
『子供…?』
一瞬だけ首を捻って直ぐ何かを思い出した様に"あぁ…"と苦く笑う。NoGenderのライブを初めて観に行く前のショッピングモールの事を葵くん達は言っておるのだろう。
「外れた関節を簡単にはめちゃうし?」
「窃盗を倒した時はヒヤッとしたぞぃ」
「「え?あれ姫さんがやったの!?」」
『あ、はは…護身術には少し自信があるので…』
苦い笑顔を浮かべたまま歯切れの悪い言葉を紡いで化粧品を片付ける。
「出来る事が多いと将来も選べるし悩むのではないかや?」
『そう…ですね』
我輩が何よりも凄いと感じたのはPV撮影の手伝いをした時の、あの演技力。予め、こうしようと言う相談はしたが台詞等は全く無く雰囲気だけで伝えるのは流石の我輩でも難しかったが雰囲気作りも泣き崩れる演技も一般人では難しいだろう。
『夢とか希望は沢山あったんですけどね…』
「今は無いんですか?」