第26章 学生編・中秋のMenuett
電話の相手の呼び出しに応じる為に単車を走らせて三十分。目的地の喫茶店に入ってスグに席には付かず御手洗を借りてライダースーツから制服に着替えて店内を見渡せば奥に見覚えのある姿を見付けてブーツ音を立てながら近付くと此方を見ずに声を発する。
「道路交通法は守るべきじゃのぅ」
『ちゃんと守ってますよ』
無免許だけど。まぁそれは秘密。
向かいの椅子に座って店員さんを呼んで注文を済ませてから、わざわざアタシを呼び出した人物に向き直る。
『暗号、解読出来たんですね』
「一晩寝ずに解読したわぃ」
意地の悪い性格じゃのぅ、と肩を竦められる。
あの日、一昨日NoGenderのPV製作を手伝ってもらってライブにも参加してもらったあの日。帰り際に耳打ちされたのは"相談したい事がある"と言う事だった。あの場で聞くと遅くなりそうだから携帯の番号を暗号化して渡したんだけど、まさか一晩で解読するとは。
「しかし我輩、"すまほ"の使い方がイマイチ分からん。じゃから今日、後輩に教えてもらってやっとかけられた所存じゃ」
可愛い凛月は教えてくれんし、と口を尖らせる。アタシも機械は得意じゃないけどスマホの使い方が分からないって…いつの時代の人なんだろうこの人。
※※※
からんからん、とグラスに入った氷をストローで弄び窓から見える景色に目を向けて、ちゅう、とストローを啜る。
『良いんじゃないですか?池ちゃ…池上様も歓迎なさるかと』
相談内容は我等UNDEADも池上先輩のライブハウスでライブをさせて欲しい、と言う内容だったんだが…こんなにもあっさりと二つ返事で許可を貰えるとは正直、思って無かった。
『内容はそれだけじゃないですよね?ライブする場所が欲しいなら私(わたくし)に相談しなくとも池上様に相談すればいい話ですから』
「智桜姫ちゃん…可愛げ無いと言われるじゃろう…」
『褒め言葉ですね』
からん、と左手でストローを弄びながら右手に頬を付いて可愛く…否、悪魔の様な微笑みを浮かべる。日本人離れした悩ましい身体に、まだあどけなさ残る幼い顔立ちも日本人と言うより東洋人っぽくて綺麗なのに。黙っておけば引く手数多だろうに…どうも賢すぎて性格はひねくれてるらしい。
「都合が合えばNoGenderに生演奏を頼みたい」