第22章 学生編・中秋のSoundTrack
コキコキ、と手首の関節を鳴らしてベースの弦に左手の指先を這わすと右手の指で弦を弾いて音を鳴らすのは姫。あれから丁度二週間。寸分の狂いも無い音は手首の完治を知らせる。
骨折をたった二週間で完治させる姫は本当に人間離れした回復力を持っている。
「流石姫さん。たった一日で完璧」
「二週間も楽器触ってねぇんだろ?バケモノかてめぇは」
『バケモノはアンタでしょ顔面凶器』
「強面は生まれつきなんですけど姫サン」
そんな今は昨日の朝から皆で泊まり込みで新曲の音合わせ。本来ならば体育祭のライブ後には動画にアップする予定だったんだけど姫の怪我で予定より遅れてしまった少し季節外れの曲。結局、予想通り怪我の事について姫は何も答えてはくれなかった。
「因みにこれ、アカネさんメインの曲だから」
『知ってる。このサビの部分、みいが浜辺で作ったやつをアレンジしてるし』
"どっちの声で歌えばいい?"と姫が振り返って問いかけながら歌詞を見る。そしたら何かを感じ取ってくれたのかベースを置いてソファに座ると机の上にあるペンを手に取る。
『ちょっと言葉弄ってもいい?』
『うん』
※※※
数日前から兄者の様子がおかしい。いや…変なのは元からなんだけど…なんて言うか悪巧みしてる、みたいな…何かを楽しそうに考えてて気持ち悪い。
「~♪」
「………」
ほら。今なんて鼻歌なんか歌いながら何処かに出掛けようとしてる。しかも超完璧な変装で。
「…!」
「!?」
しまった気付かれた。
「たまの休日じゃ。凛月もお兄ちゃんと散歩するかや?」
「…そんな気持ち悪いくらいご機嫌で何処行くの?」
「池上先輩のライブハウスじゃよ」
池上先輩の…ライブハウス?
※※※
「んじゃ黄音、先に皆を箱に連れてってね」
とファミリーカーの鍵を投げ付ける空音は別の車の鍵をチャラチャラと鳴らしながらスタジオを出る。
「彼奴、クオンの格好のまま何処に行くつもりだ?」
『「さあ?」』
昨日の朝から池ちゃん宅のスタジオに泊まり込んで新曲を合わせてついさっき完成させて、そのまま動画製作する事になって各々のセットは終える。