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【黒子のバスケ】年上彼女 file1

第2章 first quarter


「あ・・・」

 私は思わず声をあげていた。きっと、私だけでなく周りの、海常を応援する人たちは皆声を揃えていただろう。

 おチビ君の放ったパスは、味方の手に渡る事なく、相手チームのエースへと渡ってしまった。

 ブザービーター・・・

 相手チームのエースが最後に決めてみせたスリーポイントシュート。それと同時に、試合終了のベルが鳴り響いたのだ。


 ガクリと肩を落としたのは、海常を応援する観客だけではない。コートに立つ海常メンバーが皆揃って肩を落とし、涙を見せる者もいた。

 そんな中、コートでどすんと床に尻をつけたのは、誰でもない、あのおチビ君だった。震える肩に、泣いているのかと思ったけれど、涙はない。ただ体を小さく震わせて、頭を垂れ、「ごめんなさい」と口を動かしているように見える。

 ごめんなさい、ごめんなさい

 何度も繰り返される口の動きに、答える者はいない。おチビ君はぎゅっと拳を作ろうとするが、その拳に力が入る事はない。自分は、先輩達と共に悔しがる資格さえないのだと、そう言わんばかりに、ただ震えて唇をか噛み締めていた。


 ・・・きっと、彼はバスケを止めてしまうのだろう。

 私は直感的にそう思っていた。周りの選手たちは、おチビ君を視界に映し、それはもう蔑んだような視線で見降ろしている。三年生にとって、最後の試合だったのだろうか。思うところがない人はいない。それは分かりきっているのだけれど。これはちょっと、・・・いくらパスミスをしたとは言え、おチビ君が可哀相だ。

 まるで、イジメの現場に遭遇してしまったような心境なのだけれど。かと言って、今の私に出来る事はなに一つない。観客席とコートでは、世界が違うのだから・・・。


 その光景を見かねた私は席を立ち、会場の外へと流れる人並みに乗る。観客の会話は、あのパスミスがなければ、なんて話題で持ちきりだった。
 そんな中で、私はただ、彼の今後を思いながら足を進める。

 願わくば、彼が再び笑顔でコートに立てる日が来ますように・・・と。



***


 観客がワラワラと退場して行く中、未だ座りこんだままのおチビ君へ延ばされる良心の手。そして、ベンチへ戻った彼の肩を優しく包み込んだ腕があった事。

 その存在を、私が知る事になるのは、これから暫く後の事である。

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