第9章 夢浮橋
「智さんが泣いても、わめいても
苦しんで、たとえ自分を傷つけても……
今の翔先輩に何もしてやれるわけではないと
思う。それに、そんなことを望む人じゃ
ないよね…。」
「………………でも……」
と、智は口ごもる。
それでも、こんなことになってしまったのは
自分が武井にノコノコとついていってしまった
せいなのだ。
「智さん……ついでに言わせてもらうと、
責任云々を言うと、ウチのバカ親父と
お宅の二人のバカな兄貴も同罪ってことに
なるんだよね~。」
「……え……?それって……」
「翔先輩は、ずっと大野の自宅の方に
通い詰めていたんだよ。」
「……それって……」
「うん。まったく情けない話なんだけど…
ウチのバカな父親が智也さんと手を組んで
翔先輩に少々意地悪なお仕置きをしたんだ。
智さんとすれ違うように、アナタを大野の実家に
帰ったと思わせていたんだよ。」
「なっーー…!?」
「この炎天下、あなたとケンカしてから4日間
翔先輩は、ちゃんと智さんの元に
通い続けていたんだよ。
ただ……
そこにお目当ての人がいないってことを
知らなかったってのが、
悲劇だったんだけどね。」
「……う…そ……?」
全身の力がスゥッと抜けて……
智は壁に寄りかかった。
「大野の家に……?」
「そうだよ。例のクラブチームとやらの練習を
サボって……。
智さんが、こんなバカげた方法を試さなくても
翔先輩はちゃんとアナタのことを一番に
考えていたってことだよ。」
「………………」
智には、もう言葉もない。