第5章 窮鼠猫を嚙む
「智?」
「もう、勝手にすればいい。
お前がしたいようにすればいいじゃないのか?
まぁ…せいぜい尽くしてやれよ……。」
もう、どうでもいいように言い捨てると
手を上げてタクシーを止めた。
「え?智……どこへ…?」
「帰るんだよ。そんなの決まってるだろう……」
とタクシーに乗り込んだ。
ドアが閉まるその直前
智は思い出したように翔の腕を掴み……
耳元で囁いた……。
「そうだ、ついでに抱いてやればいいよ。
ホントに病気か一発でわかるかも………。」
「-----!?」
「浮気したとは思わないから大丈夫だよ。
好きなだけ他のやつの心配してやればいいんだ。
大丈夫、もう俺は翔とは約束なんてしないから…
すっぽかされるような約束をするほど
俺は暇じゃないんだ…
いいか?よく覚えおけ
俺は、お前とは2度約束なんてしないから!!!!」
「智ーーーー…!!!!!」
智は言いたいことだけう言うと
翔の腕をパッと離した。
そして、叫ぶ翔の前で、ドアがパタンと閉まる。
走り出したタクシーの中で、
携帯の電話の電源を切った。
もう何も聞きたくない……
そのままポケットに突っ込んで顔を上げると
バックミラーに映った運転手の怪訝そうな
顔が見えた。
「お客さん、どこまで行きますか?」
夢中になってて気がつかなかったけど、
かなり怪しい行動をとっていたのだろう。
(ちきしょう、
こんな場所で痴話喧嘩しちゃった……)
いきなり湧き上がった羞恥に、
慌てて視線を下げると
手の甲にポツリと小さな雫が落ちたのが見えた。
頬に手を当ててみて、自分が泣いていることに
気づいた。
(はは…………
バカみたい………………
こんなことで泣いてやんのーーーーー)