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第1章 もっと。



「あ、小エビちゃん見っけ」


そう言ってフロイドが“小エビちゃん”と揶揄する彼女、基、おんぼろ寮の監督生の方へ駆けて行って抱き付けば、抱きつかれた彼女は怯えたように震えている。大きな瞳を揺らし、今にも泣き出しそうな様子は、普段の彼女とは少しかけ離れているように見受けられた。
彼女は今年の新入生。と言っても、魔法士育成学校、ナイトレイブンカレッジに見合わない、魔力のない普通の少女だ。異世界からの来訪者となれば心が折れることもありそうですが、仲の良い御友人もできたようでこの学園にも慣れてきているように見受けられる。小柄とは言わないが、190センチを超える我々から見れば小柄と言いざるを得なく、いきなり抱きつかれれば驚くのも無理はないでしょう。


「フロイド、ラウンジでアズールが呼んでいますよ。またつまみ食いをしたようですね。」


こんな所で油を売っている場合ではありません。フロイドのつまみ食いで本日のデザートが提供出来なくなってしまっては困りますからね。「えー、俺じゃないし…」と言うフロイドに、シャツに付着したストロベリーシロップの証拠を突きつける。徐々に機嫌が悪くなってくるフロイド、こうなったフロイドを宥めるのは少々面倒…慣れてはいますがね。そんなことを考えているとフロイドの腕に収まっている彼女が口を開いた。


「ぃ、いちごのデザートがあるん…ですか?私も今度…食べに行っても…いいですか??」


フロイドを見上げ、まだ少し怯えた声色でそう問いかける彼女を見て、フロイドの表情もコロッと変わり機嫌も治ったようですね。まったく、世話が焼けます。今回のところは、彼女のお陰でしょう。


「おやおや、今日はフロイドが食べてしまったので出せませんね。」


「あ、そっか、小エビちゃんごめんね…次はつまみ食いしないから、食べに来て?」


「もちろんですっ!楽しみにしていますね。」


あのフロイドが素直に謝るのを見て、彼女が学園長から猛獣使いと揶揄されているのも頷けたと同時に、心がチクリと痛む。その笑顔を僕だけに向けて欲しい、と。

フロイドと別れ、改めて監督生さんに向き合い、今一度お礼をすると、とんでもないですと謙遜する。先程の怯えた表情とは違って柔らかい表情に胸を撫で下ろすが、失礼なことをしたと謝罪をすれば、彼女の手はまた震えはじめた。

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