第1章 もっと。
震える彼女の手をそっと包むとピクッと体を揺らしこちらを見た。僕がその場に跪くと小さな彼女を見上げる形になるから新鮮ですね。
「不安にさせてしまって申し訳ありません…私は、貴方を支えたい…」
先程からの怯えた様子に、何かあるに違いないと踏んだ僕は、その大きな瞳を逃すまいと見つめると、彼女の耳や頬が熱を帯び赤く染まっていく。陸の生き物は不思議だ。海にいた頃は火傷をしてしまいそうな熱も、今は心地よく感じるほどに。
「監督生さん、僕と、お付き合いして頂けませんか?」
すぐには返事は頂けなかったものの、僕たちの交際は始まった。
返事を頂いた際には、彼女がこの世界に来る前に辛い過去があった、ということも耳にした。彼女の笑顔が見られるならと、深くは詮索せず、フロイドにも無闇に接触すること控えるようにと話をした。まぁ、無意味でしょうが。
それでも、彼女はこの世界の人間ではない以上、元の世界へ帰れる、となったら帰ってしまうのでしょう。タイムリミットがどれほどあるのかもわからず、このまま触れることすらできないのではないか、と思うとまた胸の奥がチクリと痛む。僕としたことが、焦っているのか…とらしくもなく思うこともある。
「ジェイド〜浮かない顔してどしたの?」
「フロイド。」
「顔、こえーよ?」
部屋で過ごしていると、僕の様子を察したフロイドに声をかけられる。どうやら怖い顔をしていたようで、フロイドも身を引きながら尋ねてくる。
「あ、もしかして小エビちゃんと上手く行ってないとか?」
「そういうわけではありませんが…」
隠すつもりは無いが双子というのは察しがいいもの。
「え〜。あ、ジェイドもう小エビちゃんと交尾した?ねぇねぇどうだった?」
フロイドはシャコ貝に包む…あぁ、陸ではオブラートに包むと言うんでしたっけ、何でもストレートに言う。
「いえ、まだですよ。あまり急ぐことでもないでしょう?それに、以前にも話しましたが彼女には何かトラウマのようなものがあるようですし…」
「ふーん、トラウマね〜。」