第1章 もっと。
あまり口は挟まない方がいいとは思ったけれど、モストロラウンジは売り上げに厳しい。1人の客としての一言に、先輩の気持ちも動くかも…なんて想いを込めて言うと「え?小エビちゃん来てくれんの??」と、今まで不機嫌だった表情をパッと笑顔に変えて言った。
「おやおや、今日はフロイドが食べてしまったので出せませんね。」
「あ、そっか、小エビちゃんごめんね…次はつまみ食いしないから、食べに来て?」
「もちろんですっ!楽しみにしてますね。」
いつも以上に眉を下げて謝る先輩を見上げ、ニコッと微笑むと、先輩も嬉しそうに笑った。
「ではフロイド、アズールの所へ行って謝るんですよ。私は購買へ行って代わりの食材を調達してきますから。」
「わかった〜。じゃあね、小エビちゃん♡」
すっかり機嫌も戻ったようで、フロイド先輩はラウンジへと向かった。
「監督生さん、いつもフロイドがすみません。貴方の言葉でフロイドも気持ちを切り替えることが出来て助かりました。」
「と、とんでもないです、いちご大好きなので是非伺わせてくださいね。」
「もちろんです。いつでもお待ちしていますよ。
ところで、先程は酷く怯えているように見えました。本当に失礼致しました。」
そう言われ、さっきの抱き絞められたことを思い出すとまた体が震えてしまう。どうしても体を触られると、この世界に来る前に起こったある出来事と重なってしまうのだ。そんなこと言えるはずが無いんだけれど…。
「な、慣れていなくて…その、すみません……」
震える手をぎゅっと握り俯くと、今度はその手をジェイド先輩の大きな手で優しく包まれた。
「えっ?」
「不安にさせてしまって申し訳ありません…私は、貴方を支えたい…」
そう言って、背の高いジェイド先輩は私の前に跪きこちらを慈しむように見つめる。オッドアイに見つめられると逃げる事はできず、自分でも顔が熱く、赤くなっているのがわかるようだ。
「監督生さん、僕と、お付き合いして頂けませんか?」