第38章 水色桔梗 ~2020誕生記念~ 【明智光秀】
「光秀さん、そのアザって生まれつきですか!?」
光秀の左手首の内側にあるうっすらとした小さなアザを発見した莉乃は、思わず光秀の手首を掴んでいた。
そして、とても驚いた様子でその箇所を凝視している。
普段は着物の袖で隠れて見えないそれに気づいたのは、莉乃が届けた書簡を受け取ろうと座ったままの光秀が手を伸ばした時に袖がずれたからだ。
突然掴まれた事に驚きつつも、光秀は落ち着いた口調で答える。
光秀 「あぁ、物心付いたときにはもうあったな。
お前がいた世では珍しいのか?」
「いえ、珍しくはありません。
ただ、同じ場所にアザがある人を知っていまして・・・」
光秀 「は?」
「すみません、突拍子もなく」
光秀 「『突拍子もなく』だと?何を今更」
そう言うと光秀はククっと笑っている。
光秀 「ならば・・・
他にも似たアザがあるか、検分してみるか?」
掴まれたままの手首を、自分の着物の袷(あわせ)に近づける光秀。
差し入れても構わないと言わんばかりのその仕草に、莉乃は思わずパッと手を離し一歩飛び退いた。
「もう!
そういうことを簡単にしない方がいいですよ、先輩!!」
光秀 「ん?」
「あ、先輩じゃない、光秀さん!
いつもこうやってからかう!
手紙はお渡しましたからね、失礼します!!」
そう言うと真っ赤な顔をして光秀の自室から走り出て行く。
光秀 「ふっ、早いな・・・」
廊下を駆けていく莉乃の背を目で追いながら、光秀は「先輩」と呼ばれたその言葉に、興味深そうに目を細めた。