第31章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】基本編
日差しが強くなり始めた初夏の安土城、城下。
光秀は公務の一環である城下の見回りをしながら、一人歩いていた。
闇の気配が無いかと神経を研ぎ澄ませ、しかし表情は気温には似合わず涼しい顔をして。
「ん?あれは・・・莉乃?」
目を細めてよく見てみると、身を隠すようにしながらこそこそ歩いている莉乃が見えた。
「ふっ、なんだあの歩き方は。」
店や露天の隙間に隠れては斜めに進む莉乃の様子に、思わず笑いが漏れる。
猫が遊び相手の獲物を見つけた時のようなきらりとした目をすると、光秀は莉乃を追い始めた。
ただ、こちらはこっそりと人を追うのに慣れているせいか不自然さは一切無く、誰からも気付かれることはなかったけれど。
「莉乃は一体何を追ってるんだ?」
その答えはしばらく追った先で見つけた。
家康が小柄な女と一緒におり、露店で買い物をしていたからだ。
家康は女が買ったであろう荷物を持ってやり、いつもの仏頂面ではあったが礼儀正しく対応しているようだった。
なるほど。
莉乃は家康を追っていたのか。
あんなに分かりやすい尾行をするとは・・・
馬鹿正直な莉乃らしい。
おそらく、家康も付けられていることに気付いていると思うが。
このように分かりやすく追われては、逆に気付くなという方が無理な話だ。
店の影に隠れながら、家康とその連れを凝視している莉乃。
そっと近づいて背後に立ち、そこで初めて声をかけた。
「家康が気になるか?」
ビクンと大きく肩が跳ね、「きゃ!!」という悲鳴が上がる。
確かに多少驚かせようとはしたが、ここまで反応が大きいと逆にこちらが驚かされる。