第28章 御伽の国の姫~別館~【上杉謙信】R18
この時代で遠距離恋愛するって、我ながらすごいと思う。
唯一の連絡手段は手紙だけ。
それも、いつ届くのか分からない、そもそも届いたことも確認できない。
私の元いた時代だったら、どこに居ようが何をしていようが連絡が取れるし、離れていてもテレビ電話で顔が見られる。
せめて写真の一枚でもあればな・・・
寂しく思った夜は何度もあった。
それでも休戦協定が結ばれた今。
前のようにこそこそとではなく堂々と文通することができ、そして数ヶ月に一度は会えるようになっていた事に幸せを感じていた。
久しぶりに二人でゆっくり過ごせる今夜。
宴の興奮と彼と過ごせる嬉しさに、胸が高まりっぱなしだ。
宴が終わり、自室に戻った私は手早く湯浴みをし、髪を整え…
今日のために縫った浴衣を着ていた。
実はこの浴衣は彼とお揃いで、寝間着用に仕立てたもの。
離れていても、私のことを思い出してもらえるように。
そして私もまた、彼と同じものを着ることで寂しくないように。
離れていても繋がっていられますようにと願いを込めた。
劇を通じて親しくなった商人の方にもらった練香を、耳の後ろに少し塗る。
よし、準備はできた。
畳んだ浴衣を持ち、彼の滞在している部屋へと向かう。
焦る気持ちを抑え、ひと呼吸してから障子の中に声をかけた。
「謙信様、莉乃です」
障子がすっと開き、目の前には簡単な着物に着替えた謙信様が立っていた。
上から下へと舐めるように這う視線。
「謙信様??」
突如腕を掴まれ、強引に引き寄せられる。
勢い余って胸に飛び込む形になった私を受け止め、強く抱きしめられた。
謙信 「莉乃・・・
あのような姿を俺以外の大勢の前に晒して・・・
それ相応の覚悟はできているのだろうな?」
そっと体が離され、謙信様の両手が肩を掴む。
射るような目で見つめられ・・・
手に持っていた浴衣がぱさりと床に落ちる。
まるで見えない糸で縛られたかのように、私は動けなくなった。