第24章 悠久と玉響 【明智光秀】
爽やかな春の風に湿り気が混じり始めた水無月(6月)の安土城。
信長の号令により今日も滞りなく軍議が終わった広間には、織田軍の世話役兼、針子として働く莉乃がいつものように茶を配るため、広間に入室していた。
「失礼いたします、お茶をお持ちしました」
今日は、お茶を出す他に・・・
莉乃には重大な任務があった。
____それは『恋文』を渡すこと。
その相手は、信長様の片腕。
武将の誰よりも秘密主義で掴みどころのない、色気のある切れ長の目をした男、明智光秀だった。
皆が茶を飲み、雑談が進む中・・・
莉乃はそっと光秀に近づいた。
他の武将たちからの死角に入り、着物の袖から丁寧に折られた手紙を取り出す。
それはひと目見て普通の手紙ではないという雰囲気があり、紙には甘い香が移されていた。
「光秀さん、これを・・・」
小声でそう言い、光秀に紙が渡ろうとしたその時・・・
政宗 「おい、ちょっと待て。」
秀吉 「莉乃 なんだそれは。」
家康 「ちょっとあんた、何渡してるの」
ほぼ同時に3人から声がかかる…
3人とも今、別の所見てたはずなのに!!
気づかれぬように動いたつもりが、そうだった…
ここは日ノ本を代表する武将が集結した間…
何かをこっそりやることなど不可能だと、最初から気が付くべきだった・・・がそれはもう後の祭りだった。
光秀 「ほう、恋文か?」
にやりとして受け取ろうとするも、
信長 「莉乃が恋文だと? 検分する。 こちらによこせ」
とあっさり信長様の手に渡ってしまった…
「ちっ、違うんですーー!!!」
全員がその手紙を持つ信長様の周りを取り囲み、私はその輪に入れぬまま、周りをうろうろとするだけだった。