第17章 傾国の紅粉 【明智光秀 編】 R18
「___今宵、夜伽を命ず。 宴の後、私の部屋に来るように。」
まっすぐ目を見て放たれたその発言に、流石の俺も一瞬言葉が出なかった。
どこかで盃が落ちる音がしたが、莉乃の瞳から目が離せない。
ほう、そう来たか。
小娘にあのような事を言う意気地があったとは。
___あの時、挑むような目をしているくせに…
腿の上で固く握られた拳が震えているのを見てしまった俺は
「承知した」
と言うしかなかった。
他にいくらでもかわす言葉はあったはずなのだが。
あの発言で宴がお開きとなってしまった後、俺は莉乃に湯浴みに行くように言った。
そして俺自身もまた、湯浴みの後部屋に向かう、と告げて。
莉乃を送り出した廊下で、秀吉に話しかけられる。
般若のような顔つきの。
「・・・光秀、ちょっといいか」
「なんだ」
「お前たち、いつの間にそういう関係になってたんだ」
「かれこれ三月(みつき)にはなるな」
「はぁ!? なんで今まで黙っていた!!
莉乃は俺の妹みたいな存在だって知っているだろうが!!」
般若が俺の胸ぐらを掴む
「お前に報告する義務はない。
それに『妹』からも『兄』へ報告がなかったのだろう?」
「・・・」
掴まれていた拳が離れ、俺はよれた襟を直した。
可愛い妹分の相手として俺は気に入らないのだろう。
まぁ、その気は分からないでもないから、少しばかりの文句なら聞いてやるか。
秀吉が先を続けるのを待つ。
「・・・莉乃はなぜあんな事言ったんだ?」
「知らん、あの娘の考えてることなど。」
「も、もしかしてお前たち・・・ まだだったのか?」
「これもお前に報告する義務はないだろう、兄上よ」
茶化して言うつもりが、思いのほか鋭い言い方になってしまった。
「莉乃の事は・・・
俺は、いや、俺だけじゃない。
信長様も他の武将たちも皆、莉乃の事は大切に思っている。
お前がどういうつもりでいるのか知らないが、莉乃を泣かすようなことがあれば・・・
その時は容赦しない。」
そう言うと、さっと背中を向けて行ってしまった。