第4章 ジェイド【中編】
とっぷりと夜も更け、かろうじて動くオンボロ寮の時計の針は短針長針共に"9"を指す。約束の時間までもう直ぐだった。グリムは既にベッドの上で仰向けに寝転び豪快な寝息を立てている。私はバクバクと脈打つ心臓の意味が自分でも分からず枕を抱き締めた。
魔法を使うのが楽しみだから?
ジェイド先輩と口付けるのが恥ずかしいから?
昼間の彼の言葉の意味が汲めなかったから?
考えても分からない。或いは全て当てはまるのかもしれない。一度細く長い溜息を吐き零し枕を置いた。どの道約束を破る事は出来ないし、行こう。そう意を決めて学校の中庭へと足を向けた。
「うわ…結構暗いんだなぁ…。」
校内といえど、10時近くにもなれば教師も居ないしとても静かで暗い。寮から学校までは繋がっているから侵入に困る事は無かったが、月明かりだけが照らす空間は割と視界が悪く目を凝らす。
すると中庭の隅の方で、月明かりを浴びて鮮やかな青色が光って見えた。彼は私の存在に気が付くと振り返り、胸に手をあて恭しく頭を下げニコリと笑う。
「お、お待たせしてすみません…!」
「いいえ、僕も今しがたこちらに着いたばかりでした。」
隣に並んで立つ。相変わらず見上げないとならない程背が高い。スマートだし振る舞いも一つ一つ丁寧で…って私は何を考えてるんだ。
思考に耽っていたら、ジェイド先輩は木の影に座る。私もそれに倣い隣へ腰掛けた。
「昼食は如何でしたか?」
「すっごく美味しかったです!ホワイトソースにキノコが絡んでて、風味がとても良くて歯応えもしっかりあって…流石ジェイド先輩の目利きですね!」
「喜んで頂けたようで何よりです。モストロ・ラウンジのドリンクや軽食等も概ね僕がメニューの提案をしているのです。こちらも気に入って頂けるかと思いますので、是非ともお越しください。勿論、ご友人様も連れて。」
「営業根性が凄い…。ポイントカードも貰っちゃってますし、近々エース達と行きます。」
「僕はオクタヴィネルの副寮長ですので。アズールの為になることで有れば惜しみません。其れを差し引いたとしても、さんには来て頂きたいのですが。」
「私に?」
「えぇ。貴方が居らっしゃるとフロイドの機嫌は良くなりますし、しっかり働いてくれますから。」
「ダシに使わないで下さい!」
「ふふ、冗談ですよ。」