第3章 ジェイド【前編】
「……確かに、使ってみたい魔法もいっぱいある、んですけど…。というか、ジェイド先輩は嫌じゃないんですか?私とキスするの。」
「おかしな事を聞きますね。嫌だと思っているのならば、そもそもこうして誘いに来たりはしません。」
「そうですよねぇ………え、それってどういう…」
「さて、どういう意味でしょう。」
言葉の意味を直ぐに理解する事が出来なかった。キスするのは、嫌じゃない。何故?商売だから?…いや、今のところジェイド先輩にとってメリットはひとつも無いと思う。マドルを渡している訳でもないし。混乱して思考が追いついて来ない中、彼の言葉は続いた。
「では…ー」
「へ…?」
「本日10時頃…先日と同じ、中庭で貴方をお待ちしております。」
腰を曲げたジェイド先輩の唇が耳元に近付く。吐息を吹き掛ける様に言葉を紡ぐ低い声音に思わず身体が固まった。
バッ、と後ろを振り返れば彼は今日も、クスクスと笑う。
「それでは僕はフロイドを探さなければなりませんので。ご友人とのお食事、楽しんで下さいね。」
「ふぁい……。」
随分気の抜けた返事をしてしまった。けれどそれ位驚いたのだ。というか、待ってるなんて言われてしまったら逃げ場が無い。すっぽかすなんて、下級生としてできるわけが無いのだ。無理矢理約束を取り付けられてしまった…!さっきの言葉の意味も追及出来ていないままだし、頭がパンクしそう。悶々とする想いを抱えたまま注文したキノコのクリームソースパスタが届き、トレーに乗せグリム達の元へと戻る。心做しかエースとデュースの表情が強ばっているというか、不機嫌そうに見えた。
「お前、あの先輩になんか弱みでも握られてるわけ?」
「そんな事ないよ。」
「じゃあなんであんな親密そうなんだ?…まさか、監督生あの人と……」
「何もないってば!キノコ好きなら今度山に一緒に行こうって誘われただけ!」
「本当か〜?怪しーんだゾ!」
「もーグリムまで。本当だってば。」
…3人に嘘をついてしまった。少しだけ罪悪感が募る。でもバカ正直に、ジェイド先輩とキスして魔法を使ってるなんて言えるわけが無い。私は首を横に大きく振り、放課後の事から意識を逸らす。
それからお昼に食べたクリームパスタは、舌を巻くほど美味しかった。