第1章 噂話、の筈だった。
ある島の森の奥に、1匹の白い虎が住んでいました。
昼は陽の光を浴びて美しく輝く白い毛並みと、大きく澄んだ瞳で人々を魅了し、夜になると大きな爪と牙で襲いかかってくる、美しくて、とても凶暴な獣です。
出会ったら最後、生きて帰った人は1人もいません。
沢山の人がその獣を恐れ、遂に獣が住んでいる洞窟の入口を大きな岩で塞いで出て来られないようにしてしまいました。
こうして島の人々は安心して暮らせるようになりましたとさ。
めでたしめでたし。
「…っていう話があるらしいぜ」
「ヘェ、それで?」
「何だよーもうちょい話に乗ってこいよ、つまんねぇなぁ」
デッキで新聞を読んでいると、隣に座り込んでいたサッチが急にそんな噂話をし始めた。
「虎が凶暴なんて、普通だろぃ」
「そーんな事言うなよォ~こっから先が面白くなんのに~」
そんな不貞腐れた顔をされても、興味が無いものは無い。
「いい歳してガキみたいな絡み方するんじゃねえよぃ…めんどくせェ」
「誰がガキだ誰が!あとボソッとめんどくせェとか言うな!傷付くだろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出すサッチに溜息をついて読み終えた新聞を畳んで立ち上がると、視界には話題に上がっていた島が見えてきていた。
「あっ!ちょっとどこ行くんだよマルコ!まだ話は終わってないって言ってるだろ!?その白い虎なんだけどよ…」
「オヤジから次の島に上陸する前に様子を散策して来いって言われてんだ。ちゃちゃっと済ませてくるよぃ」
そう言い残して不死鳥の能力を使い空へと飛び、次の上陸先の島へと向かった。
「……食われないように気をつけろよ〜」
1人デッキに残されたサッチが言った事なんか、聞こえている筈がなかった。