第80章 魔王と虎
幸若舞『敦盛』
信長様はこれを特に好まれていて、普段の宴でも興が乗られると、たびたび舞っておられた。
人の世の五十年は、天界においては夢幻の如き短さだ、この世に生まれた者には、いつか必ず終わりが訪れると、この世の儚さを謡った演目だ。
(お誕生日の祝いには、少し物哀しい気もするけれど……この舞は、人の世の儚さ、命の尊さを自覚し、日々、その生を精一杯生きておられる信長様らしい…)
息一つ乱すことなく舞い終えた信長は、愛らしい瞳を潤ませて自分を見つめる朱里の姿を見て、至極満足そうに笑みを零した。
貴方がこの世に生を受けた日を
来年も再来年も、そのまた先も
貴方と共に迎えられますように
貴方がこの先どのような道を選ばれようとも
私は貴方と共に生きていく
貴方の手が血塗れて冷たくなるならば
私がその手を温めましょう
貴方の心が再び冷たく凍ってしまわぬように
私の身体でその身を包みましょう
貴方が生きるこの世の全てに感謝します
愛しています 信長様