第78章 禁じられた遊び
視察の旅から戻られた信長様は、またご政務に忙しい日々を送られている。
道の普請や田畑の開拓、水路の整備など……領地の村々から日々挙げられる細々とした要望にも、信長様は逐一耳を傾けられる。
時には、現地に赴いて自らの目で確認し、民たちから直接話を聞かれることもあった。
天下人である信長様ご自身が動かれずとも、家臣達に任せておいても良いようにも思うが、
『何でも自分の目で見なくては、気が済まぬ性分なのだ』
と、笑って出かけて行かれるのだ。
(信長様のそういうところ…好きだな…)
領民たちと親しく接する信長様をお傍で見ているのが好きで、領地の視察にはよく同行させてもらっていたのだが……
小田原から戻って以来、私は少し体調を崩していた。
帰りの船では珍しく気分が悪くなり、色々と心労が重なって船酔いでもしたのだろうと思っていたのだが、堺で船を降りて馬に乗り換えてからも、何となく調子が悪かった。
城に戻ってからも、どことなく身体が重く感じられ、かと言って寝込むほどのこともなく……原因不明の気怠さに自分自身も戸惑っていた。
(色々あって疲れが溜まってるのかも…休めばすぐ治るだろうし、信長様には内緒にしておこう…これ以上心配かけたくない…)
母のことでは、我ながら随分と取り乱してしまい、たくさん心配させてしまった。
信長様が支えてくださったから…前を向くことができた。
母を喪ったことは辛く、悲しみはいまだ完全には癒えていないけれど……私には信長様がついていてくれる。
「姫様、少し横になられては?お顔の色が良くないですよ…またご気分がお悪いのではないですか?」
自室でぼんやりしていると、千代が心配そうに覗き込んでくる。
「ん…大丈夫、今日はそんなに辛くないの。身体が重くて、少し眠いぐらい…かな」
「……姫様、あの…信長様に、しばらく夜伽を控えて頂くようにお願いなされては?夜ゆっくりお休みになれば、お疲れも取れるのではないですか?」
「千代……」
(千代がそんなことを言うなんて…随分心配かけちゃってるんだな)
「大丈夫よ、すぐに良くなるから……調子が悪いこと、信長様には内緒にしておきたいの。これ以上心配かけたくない。
それに…体調にはムラがあるから……気分が良い日もあるのよ」
笑って言う私を千代はいつまでも心配そうに見ていた。