第77章 別離
抑えていた感情が堰を切ったように溢れているのか、朱里はくしゃりと顔を歪める。
その瞳からは、見る見るうちに涙が溢れ出し、抑えきれぬ雫が頬を伝っていく。
「……私が泣いては皆に心配をかけるから…北条家の姫として、織田家の嫁として恥じぬ振る舞いをせねば、とそう思って…うっ…」
「実の母の死を悼んで涙を流したとて、何を恥じることがあろう?そのような、つまらぬ気遣いなどせずともよい。貴様はありのままでよい……母上とて、そう願われておったはずだ」
俯いていた朱里の顔が、ハッとしたように上げられる。
涙に潤む瞳は、どこか遠くを見ているようでもあり……亡き母の姿を思い出しているのかもしれなかった。
「信長様っ…うっ…あぁっ…あ、あぁ…母上っ…母上っ…わぁ…」
心の内に秘めていたものを全て吐き出すような嗚咽の声は、悲しみに溢れていた。
一度吐き出してしまえば、後はもう次々と溢れてくるものは止められないようだった。
感情の赴くままに声を上げて泣く姿に、ぎゅっと胸を締め付けられる。
子供のように泣きじゃくる朱里の身体を、信長はただ黙って抱き締め続けた。
気が済むまで泣けばよい…悲しみが癒えるまで……
何があろうと貴様は俺が守ってやる。