第75章 ひとり寝の夜
「………朱里…」
(……………っ…えっ?)
突如、耳元で囁くように呼びかけられて、身体がビクリと震える。
心の臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けて、思わず息が止まりそうになってしまった。
(っ…嘘っ…どうして……)
「……朱里」
もう一度呼びかける声…今度は先程よりも更に甘い声音で、耳の奥へ注ぎ込むかのような吐息混じりの声だった。
「っ……ぁ…信長、さま…?」
背後からふわりと抱き締められた瞬間、嗅ぎ慣れた伽羅の香の香りが鼻腔を擽る。
あっと思った時には、耳朶にチュッと口づけられていた。
「やっ…どうしてっ…信長様…」
(嘘っ…なんで…どうしよう…こんなはしたない姿、見られるなんて…)
なぜ信長様が…いつお帰りに…今宵戻られるなんて聞いてない…どこから見られてたんだろう……
混乱する頭の中で、『なぜ、どうして』と答えの出ない問いが、ぐるぐると堂々巡りを繰り返している。
信長様が不在の夜に、自分で自分の身体を慰めるなんて……しかも、張型を使って…見られるなんて…ああ、もう、恥ずかしすぎる。
言い逃れできないこの状況に、心の臓は壊れてしまいそうなほどに早鐘を打ち、羞恥で身体が震えてしまっていた。
明らかに激しく動揺しているのを隠しきれなかったが、それでも、足の間に忍ばせた張型を抜こうと、震える手に力を入れる。
「……待て。朱里、このまま…続けよ。くくっ…まだ途中なのだろう?」
意地悪っぽく言いながら、手を押さえられ、グイッと張型を更に奥へと押し込まれる。
「あ"あ"っ!やっ、いやっ!ご、ごめんなさいっ、私…」
「くくっ…謝らずともよい。まだ達してないのであろう?さあ早く……続きをやれ」
後ろから身体を密着させられたまま、耳元で囁かれる言葉は悪魔の誘惑のようだった。
信長様の声音は、どこまでも甘く優しげだったけれど、抗うことを一切許さぬ、という雰囲気が溢れていた。
「や、やだっ…できない…そんなこと…」
恥ずかしさと恐ろしさで混乱し涙目になる私とは反対に、信長様はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべていて、ひどく愉しげだった。
「くくっ…ああ、一人でするのは嫌か?ならば、俺も手伝ってやろう」
(っ……何を……)
ーくちゅっ にゅるっ…
「ひっ!や、いやぁ……」