第74章 花の宴
「っ…んっ、信長様?」
私の身体を引き寄せた信長様は、軽々と膝の上に座らせて、後ろから包み込むように抱き締める。
湯上がりの火照った身体からは良い香りがしている。
首筋に顔を寄せられて、熱い吐息が直にかかると、それだけでドキリと胸の鼓動が忙しなくなる。
けれど……
「やっ、あの…私、湯浴みもまだだから…」
今日は馬に乗ったし、よいお天気だったから、髪も身体も、汗やら埃やらで色々と気になるのだ。
帰城してから着替えたとはいえ、湯浴みの前にこんなに密着するのは……さすがに気が引ける。
おまけに信長様の方は、湯浴み後のひどくさっぱりしたお身体だし…と、柄にもなく乙女心が揺れていて、素直に身を委ねられなかったのだ。
「そんなことか…俺は別に構わん」
「っ…やだっ、私は構いますよっ!」
「些細なことを気にするでない。それに、湯浴み前の貴様のしっとりした身体もまた…唆られる」
「!?」
(しっとり、って…汗ばんでるってこと??)
慌てて身を捩り、信長様の腕の中から逃れようとする私を嘲笑うかのように、首筋にチュウっと熱い唇が押し付けられた。
「んんっ…やだぁ…」
首筋も汗でベタついているような気がして、触れられるのが恥ずかしくて堪らなかった。
いつもなら快感を感じる行為も、羞恥心が上回ってしまい、それどころではなかった。
けれども……そんな私の気持ちなど、信長様にはお構いなしのようで………
「朱里…俺は、どんな貴様にも欲情するし、抱きたいと思う。
だから…今すぐ俺のものになれ」
「っ…あっ…」
欲を孕んだ熱っぽい目で見つめられて、それ以上抗うことはできなかった。
そのまま寝所へと連れていかれた私は、結局、湯浴みも出来ぬまま、散々に愛を注がれて、朝まで離してもらえなかったのだった。