第73章 恋文
いきなり、グイッと腕を引かれて抱き寄せられたかと思うと、鼻先が触れるほどの距離でジロリと睨まれる。
「熱烈な愛の言葉か…あの男の文のような、か?」
「っ…えっ…?」
「あのような歯の浮くような愛の言葉がお望みか、奥方様?」
(お、怒ってる…急にどうして…っていうか、信長様、あの文の束を全部読まれたの??)
「あ、あの、信長様…」
逞しい胸板を押し戻して少し距離を取ろうとするが、信長様は私の腰にしっかりと腕を回していて、離してくれない。
信長様の少し高めの体温が、触れ合っているところから伝わってきて、ドキドキと胸がうるさく騒いでしまう。
「……気が変わった。恋文など…もう書いてやらん」
「え、ええーっ、なんで??」
不機嫌そうに顔を背ける信長様に、慌てて縋りつくと、
「っ…んんっ!」
不意打ちのように、チュウっと熱い口づけが降ってくる。
「……俺の貴様への愛は、やはり言葉になどできん。文になど…到底収まらんわ」
「信長様……」
愛情たっぷりの言葉に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
信長様はいつだって溢れんばかりの愛で私を包んでくれる。
だから私も…貴方の為に私の全てを捧げます。
========
書きかけの恋文は、どうなったのかというと………
信長様からの恋文が欲しい、と私が必死に頼み込んだ結果、
『貴様から俺に口づけよ。俺が満足できるぐらい上手くできたら、続きを書いてやらんこともない』
という、信長様らしい俺様な条件を提示され……
散々にダメ出しをもらいながらも、濃厚な口づけを何度も繰り返しさせられた結果、完成した恋文は無事に私の手元に届けられたのだった。
普段の信長様からは想像できないような、熱烈な愛の言葉が溢れんばかりにしたためられた、この世でたった一つのその恋文は、私の一生の宝物になった。